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Ralph Kirshbaum (ラルフ・カーシュバウム)のバッハ無伴奏チェロ組曲

只今日本に居ります。。
これが最後になるJ1 Visaの更新と、今度から給料を日本から貰うことになるので(円高万歳!!)、色々手続きのために戻って参りました。
銀行のアカウント開いたりいろいろネタはあるのですが、それは全部無事完了したときに上げるとして、今日はジョブの完了を待つ間にまたひとつ音楽ネタを。




今ネームカードに大慌てで足したのですが、実はMadisonでViolaを習っています。
Wisconsin大学音楽部の学生さんが、とてもリーズナブルなレッスン代で楽器を教えてくれる、というシステムがありまして(大学主催)、その時にお世話になった先生に、今も教わっているのですが。

Viola、といえば、とにかく曲があまりないのですね……(涙)。
まあ、ソロ楽器としての歴史が浅すぎるので仕方がない。
で、Violaのレッスンピースとなると、どうしてもヴァイオリン曲の移調ものか、チェロ曲を1オクターヴ上げて弾く、とかになってしまうのです。

で、今やってるのが、あまりにも有名なバッハの無伴奏チェロ組曲の第1番です。
もう、ワタクシの技術に余るのは百どころか千も万も承知なのですが、先生がエチュードばかりではつまらないだろう、と入れてくれたのです。
しかし、あの名曲が……私の手にかかると………(涙、涙、涙)

で、プロの演奏を聞くとあまりのギャップに悲しくなってしまうのと、自分がどう弾きたいのかわからなくなりそうなので、曲をさらう前には敢えて音はきかないことにしました。
ヨーヨー・マのCDを持ってましたが、日本に置きっぱなしでもう何年もきいていなくて、どんな演奏だったか覚えておらず、自分がどう弾くかを考えるには好都合でした。

まあ、所謂初心者の方で、無伴奏の1番のプレリュードをさらったことがある方はご存知でしょうが、このあまりにも有名なプレリュードを美しく弾くのは大変なのです……。まず、移弦がうまくできない(ええ、そういうレベルです(笑))。そのつぎは、魂音だけを上手く響かせて、残りの八分音符を上手く抜く、というのが出来ずにバタバタしてしまう。きわめつけは、2小節一単位の繰り返しで曲が構成されているので、うまくやらないと極めて単調になってしまう(涙)

かれこれ、3ヶ月以上この曲(プレリュードだけ!)と格闘しました。まあ、所謂サル練ですが、ナントカの一つ覚えじゃないけど、それだけやれば一応の進歩はあり、ちょっと自分なりの色をつけてみたり、なんてのも出来るようになりました(勿論完成までにはほど遠いですが)。
で、一応次のアルマンドに進む前に、プロの演奏をきいてみよう、と思い立ったわけです。

レッスンで○を貰った曲だけ買えばいいや、とiTuneで色々物色して、取り敢えず昔よく聞いていたヨーヨー・マをダウンロードしてみたのですが、、、

なんか、ちょっと、かなり拍子抜け、、、(汗)
いや、彼は何度か録音してたと思うから、もしかすると、もっといい演奏があるのかな? と思ったんですが、、、
皆さんが絶賛する通り、技術的には素晴らしいですし、よく歌っているのですが、何故か、この曲を弾いている楽しさがあまり感じられないのです。

確かに、1番のプレリュードってかなり単調だから、あんまりプロには楽しくないのかも知れませんが……

私にとって、この1番のプレリュードというのはもの凄く特別な曲で、よくぞこれだけ単調な構造とアルペジオだけでここまで美しい曲を生み出せる、と思うし、これが弾ける、というのはそれだけで幸せなことです。多分、初めてこの曲を弾くチェロ弾きさんもそういう気持ちになると思うのですが。
その幸せ感が、なんか、薄いなー、という気がしたのです。
まあ、プロはもっといろんな曲が弾けるのですから、この曲に特に何かを込める必要はないのかも知れませんが。。。

あんまり楽しそうに聞こえない理由の一つは、繰り返しの2回目が単調だから、だと私は思ってます。まあ、お偉い批評家さん達に言わせれば、バッハをドラマチックに情感込めてやるなんてのは原曲に対する冒涜だとかなんとか怒られそうですけど(笑)
そういう話じゃないだろ、とこの曲のファンとしては思う。
音楽というのは、一瞬一瞬でその音が消えて行ってしまうものだから、繰り返しだろうが何だろうが、かけがえのない一瞬であって……ハイ、繰り返しの2回目はチョット弱めにね、なんてそんな簡単な話ではない。そこに、どれだけ愛情を込められるかが、全曲の出来を支配する、と思うのですよ(笑)。

久しぶりに聞いたヨーヨー・マのバッハには、なんかその愛情が感じられなかったのです。(重ねていいますが、録音が悪かったのかも知れないし、彼の他の曲はいいものもあると思う)
でも、昔は喜んで聞いていたのだから、多分、変わったのは私の方なんでしょう。
つまり、自分で弾いたら、欲が出て来てしまった、と(笑)。

で、つぎはカザルスをダウンロードしてみた(笑)。
(これも1番のプレリュードだけ、です)
まあ、悪くないんだけど、やっぱりちょっと荒い。バッハは、もう少し、繰り返しで工夫してくれる事を演奏者に期待してたんじゃないかなあ、だからあんなにしつこく繰り返しをやったんじゃないだろうか、なんて勝手に想像してしまう(笑)。

ここまできて、こうなったら何が何でもツボにハマる演奏を探してやる!!とiTuneの視聴を聞きまくって、それで、出会ったのがラルフ・カーシュバウムでした。
これ、ディスク自体メチャクチャ安いんですよ……全曲ダウンロードしてもたしか8ドルいかなかったと思う。だけど、この人のプレリュードを聞いたときに、これだ!と思いました。
勿論、人それぞれの好みはあると思うし、スタイルの違いもあるでしょうが、それ以前に、とにかく楽しそうなんですよ!
この曲が弾けて楽しい、嬉しい、本人がきっとそう思って弾いている、という感じがする演奏なのです。
どっかのウェブでこの演奏(プレリュードね)をやりすぎだと評する記事を見かけましたが(どこだったか忘れた……でも、その方も総合評価ではかなり高い評価をつけていらしたと記憶しています)、まあ、所謂一般のリスナーにはそう聞こえるかもしれなくても、この曲がホントに好きだったら、このくらいやりたくなりますって、絶対(笑)。

こう書くと、自分の価値観を押し付けるような、感情的な独りよがりの演奏なんじゃないか、と警戒心を持たれそうですが、そこが、ほんとに好きで弾いてるかどうかの分かれ目というか(笑)。
私も、独善的な演奏はキライです。そういう演奏からは、「ほら、私の解釈を見てよ、凄いでしょう!」って押し付けがましさを感じる。
いや、ホント、この曲が大好きだから、どうしてもそうなっちゃうんだよね、という演奏からは、もっと素直な印象を受ける。人間の感覚って、そのくらいの違いは結構簡単に嗅ぎ分けるものだと思う。

で、カーシュバウムのバッハからは、後者の印象を受けるのです。
一音一音の処理が本当に丁寧なのです。つい、弓の勢いで弾いちゃった、という音が全く、とは言えなくても、殆どないといっていい。八分音符だろうが、十六分音符だろうが、です。これは、愛なくしては出来ないと思う。
(まあ、このフレーズどうやって処理しようかなあ、とまだ迷ってるかな? という感じがする場所はあるのですが……それは、大バッハといえど、全てがきれいに辻褄が合う場所ばかりではないから、難しい場所があるのはある程度仕方がない。)
多分、こんなに好き勝手やっちゃったら、批評家に結構叩かれたんじゃないかなー、と思うのですが(笑)。
というか、こんなこと言っちゃいけないんだけど、彼が「アメリカ人」というのがもうびっくりです!!! アメリカ人演奏家ってどうも大雑把な印象が強いのだけれど、完全に偏見でしたね。<あ、ちびっとだけ渡米生活??

iTuneで簡単に視聴できますから、無伴奏好きな方は是非一度聞いてみる事をおすすめします。
たった30秒でも、違いは分かりますので。

あ、一点だけ。
このカーシュバウムの演奏、結構呼吸音が入ってしまっています。私はあまり気にならない方ですが(グールドの鼻歌が許せるくらいですから(笑))一度気になり出すと、かなり煩く感じる部分もあります。特にピアニッシモのところなど。そういうのダメな人はご注意下さい。
by lily_lila | 2008-11-12 20:21 | 音楽

渡米生活日々の備忘録。


by lily_lila