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アメリカのウサギ保護事情3〜シェルターをめぐる問題

ウサギブログからのクロスポスト、第4弾。

この記事は、以下の記事の続きです。
アメリカのウサギ保護事情1〜シェルター
アメリカのウサギ保護事情2〜PetFinder


4)シェルターをめぐる問題

これまでに紹介したとおり、アメリカは日本に比べてシェルターが充実していることは事実です。しかし、同時に、それゆえの問題も抱えています。

まずは、シェルターの存在そのものに起因する問題です。
シェルターがあるがために、安易に動物を買い求め、飽きたら流行遅れの服を棄てるように動物をシェルターに持ち込む人も、残念ながらいます。
また、シェルターがあるがために、飼い主がそれほど必死になって里親探しをしない、という側面があることも事実です。


もうひとつは、前述のとおり、シェルターの多くが民間の団体であり、その財源を殆ど寄附に依存していることに付随する問題です。

残念ながら、純粋に動物のためではなく、動物を口実に寄付金を集めることを目的とした悪質シェルターも存在します。
あるいは、「殺されるのは可哀想」と自身の経済基盤以上の動物を引き取ってしまい、全ての動物の面倒を見きれているとは言い難いシェルターもあります。
こういったシェルターの中には、動物たちの世話もまともにやらず、病気になっても医療も受けさせず死なせているところもありますが、周囲の人の通報や行政の介入によってそれが明らかになるまでには、時間がかかることが殆どです。


また、最初はそこまで悪質ではなく、純粋に動物たちの為を思って始めたことが、経済の悪化などにより急激に寄附の金額が減少したり、オーナーが仕事を失ったりしてたちゆかなくなる、ということもあります。
困ったことに、こういったケースの中には、動物だけでなく自分の子供達まで育児放棄していたり、麻薬に溺れたりして家庭崩壊しているケースも少なくないのです。
(あるいは、こうして家庭が崩壊したからこそ行政が介入し、実態が明らかになった、とも言えます。外向きには対面を保ちつつも、寄付金の激減により動物達の待遇が著しく悪化したが誰にも気づかれず、人知れず動物たちが虐待されている、というケースはもっと多い可能性もあります。)


2008年のリーマンショックから二年間、全米でこのような破綻シェルターが激増しました。
Wisconsin HRS(ハウスラビット・ソサエティ・ウィスコンシン支部)も、2009年から2010年にかけて、合計3回も破綻シェルターからのウサギを受け入れました。
通常なら有り得ない頻度で、その間、Wisconsin HRSの通常業務は完全にストップしました。
破綻シェルターから引き取られた子達は、病気を煩っていたり、激やせしていたり、怪我をしている子が多く、スタッフにはウサギの治療と世話以外の業務をこなす余裕が全くなかったのです。
地域のHumane Society(ヒューメイン・ソサエティ)も収容能力ギリギリの状態が続き、そのショックは今も尾をひいています。


このような事態が起こらないようにするしくみは、完全に機能しているとは言い難いのが現状です。
Wisconsin HRSが最後にウサギを受け入れた破綻シェルターは、135匹のウサギを始めとして、2頭の馬も含む合計200匹以上の動物を抱えていたにもかかわらず、行政からの援助金はなんと年間700ドルという有様でした。
事態が明らかになるにつれ、その程度の金額しか出せないなら、この規模のシェルターを認可すべきではない、との非難が起こりましたが、再発を防ぐ努力が行われているかどうかは不明です。


5)日本にシェルターは出来るか




ここで言う「シェルター」とは、個人シェルターのことではなく、Humane Society並みの全国規模のシェルターのことですが......。


正直なところ、私はアメリカに来るまで、日本にはシェルターがないからいけないのだ、と考えていました。
欧米式のシェルターがあれば、ペットショップで買う以外の方法をとる人も多いだろうに、と。

しかし、こちらへ来て、上に述べたような問題も知った今、問題はもっと本質的なところにある、と思うようになりました。


非常にじれったい事ではありますが......
シェルターにも、上に述べたような負の側面があります。
だからこそ、動物に関わる人、動物に興味がある人、これから動物を買ってみたい人、そういった人達の意識が変わらなければ、結局悪い面だけが強調されてしまうのではないか、と思うのです。

また、動物愛護センター(旧保健所)で一生を終える動物の数が多いのは、なんといっても、数のコントロールが出来ていない事が一番の理由です。
こちらのページにもあるとおり、動物愛護センターに持ち込まれるのは、犬なら5匹に1匹、猫ならなんと4匹のうち3匹が、子犬、子猫です。

そもそも、犬も猫も、勿論ウサギも、一度に5匹ほども子供を生みます。
1匹の保護動物の家を見つけるのにも大変だというのに、それがたった1度の出産で、あっという間に5倍に増えるのです......。
避妊/去勢手術による数のコントロールが行われない限り、シェルター活動は勿論、殺処分でさえ焼け石に水です。


つまり、一番大事なのは、動物を最後まで可愛がり、間違っても望まない繁殖をさせないための予防策を行う、という啓蒙活動であり、その一方で現在も子供を生み続けている動物たちの避妊手術を行うことです。
増えてしまった子を愛護センターに連れて来て殺しても、現状より増やさないようにすることしか出来ません。
野良犬、野良猫の繁殖も問題ですが、飼い主にもこの問題を真剣に考えてもらう必要があります。

このエントリーのシリーズの一番最初にも、簡単なウサギの数の計算をやりましたが、ここでもう一度、今度は日本の猫について試算してみたいと思います。


こちらのペットフード協会の調査によれば、日本で飼われている犬や猫の数は、それぞれ1千万匹程度です。
こちらのページによれば、避妊/去勢していない猫の割合は18%だそうですから、猫の場合について、生殖能力のある飼い猫の数を大体200万匹と見積もってみます。

「つい猫を外に出してしまって、子供が出来てしまった」ケースなども、飼い主にしてみれば「うっかり」でしょうが、たとえばこれらの猫の百匹に1匹がこういう「うっかり」で繁殖行動をしてしまっただけで、親のペアの数1万 x 平均5匹 = 5万匹の子猫が生まれてしまいます。
一方、先の愛護センターの統計で、返還・譲渡されて生き延びた猫の数は、その5分の1にも満たないのです。

百匹に一匹、といったら、1%です。
飼い主の性格も、飼育環境も、増えすぎている動物の数に対する意識も千差万別の中、1%の「うっかりミス」を根絶するのは、ほとんど不可能と言って良いでしょう。
実際はもっと多いかも知れませんし、少ないかも知れませんが......。

「うっかり」よりももっとありそうなのは、「うちの子の子供達を一度だけ見たい」という願望です。
実際、私もウサギでそれをやってしまったので、その誘惑がいかに強いものか、よく分かります。

しかし、自分のウサギ達に生ませた子供達が本当に全部幸せになったか、と聞かれれば、私は「おそらくノー」だと答えます。
もしかしたら、私の知らない場所で、飼育放棄されてしまった子もいるかも知れません。全ての子達の現在の消息は、私も知らないからです。

この、「うちの子の血を受け継いだ子を......」という誘惑は、生半可な「繁殖させない心づもり」など簡単に打ち砕きます。
しかも、殆どの場合、飼い主は、「子供は子供で、親とは別の個体」ということを思い知らされて、数ヶ月後には、その子が親の血を継いでいることにはあまり意味を見いださなくなっているのです。
(可愛いのはその子の個性であって、親の血を継いでいるからではない、という意味で)


だからこそ、「うちは去勢/避妊手術なんかしなくても、繁殖はさせません」という飼い主の覚悟だけでは、不十分なのです。


こういった啓蒙活動と、それと同時に避妊手術をもっと簡単に出来る環境が整わなければ、シェルターは単に無責任な飼い主の動物捨て場になってしまう恐れがあります。
そこを考えるとき、おそらく行政主導でHumane Societyのような施設だけを作っても、何も変わらないどころか事態は悪化するかも知れない、と思うようになりました。
行政からの資金援助は勿論あって良いですが、中心となって動くのは、やはり動物が好きな人、実際に動物と関わる仕事をしている人であるべきなのではないか、と。
そうでなければ、一番大事な啓蒙活動の部分が、形骸化してしまう、と思うのです。


たとえば、手術にはどうしても危険がつきまといます。
避妊手術は比較的簡単な部類に入る、とはいっても、手術で命を落とす可能性もゼロではないことは事実です。
ペットを愛する人ほど、可愛い子に痛い思いはさせたくない、と思うでしょう。
また、年間何十万という犬猫が殺されている、と知っていても、どうしても自分の家で繁殖してみたい、と思う人もいるでしょう。
そういう人達が、日本全体の余剰している犬猫の数を減らすために、一念発起して手術をしよう、と決心するとしたら、行政からそうするように勧められたから、ではないだろう、と思うのです。
本当に動物を愛する人達の情熱、実際に動物と関わる仕事で得た知識、そういうものでなければ、なかなか見ず知らずの人には伝わっていかない......と、これは実感です。


そういう意味で、私は動物の専門家の方々に、もっと積極的に啓蒙活動や個人シェルターの活動を引っ張っていって欲しい、と思います。
特に、獣医学部の学生さんには真剣に考えてもらいたいです。
(勿論、実際に活動されている方も多いと思いますが、積極的にこういった活動の表に出てきて欲しい、という意味で)
HRSでもそうですが、シェルターには様々な状態の動物たちがやってきます。
治療が必要な子、行動改善が必要な子も少なくありません。
実際に、動物に詳しい方の手が必要になることが多いのです。
勿論、大学側が、そういった学生の活動をきちんと評価するシステムも必要ですし、先生方の協力も必要です。

飼い主に捨てられて年間何十万と殺されている動物達の問題には、やはり実際に動物から恩恵を受けている人々(動物が好きな人は勿論ですが、研究などで動物から恩恵を受けている人も)が真剣に取り組まなければ、誰も真剣には考えてくれないでしょう。
日本にシェルターが出来るか、それがうまく地域に根付くかどうかは、結局動物が好きな人の姿勢にかかっている、と私は思います。


まずは、動物が好きな人が、この問題を、動物を捨ててしまうような無責任な誰かの問題ではなく、自分達の問題として真剣に考えることから、全てが始まるのだと思います。
by lily_lila | 2011-01-29 07:44 | 渡米生活...環境・社会

渡米生活日々の備忘録。


by lily_lila