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渡米生活日々の備忘録。
by lily_lila
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ミリキタニの猫 (Independent Lense)

TiVoのお陰で、面白い番組を録れるようになりました。

お気に入りなのが、Sciense チャンネルとPBS。 PBSといえば、「Nature」や「Nova」など、NHKエンタープライズのような番組をいっぱい流してくれて大変嬉しいのですが、最近のお気に入りは「Independent Lense」です。

これは、一人(というか多分independentの)の監督が取材を通して作ったドキュメンタリーを集めて放送するシリーズで、毎回大変見応えがあります。内容は、まあ、アメリカの商業主義テレビ局には作れない映像ばかりといえば想像はつくかと(笑)
その中に、先日、「ミリキタニの猫」という番組がありました。
もともとは、昨年公開されたもののようです。

これは、ちょっと凄かった。
毎回Independent Lenseはいいと思うんだけど、出色の出来映えです。
後で調べていたら、ドキュメンタリー映画の賞を四つもとっていて、成程、と頷けました。
こんな凄い番組、どうして日本でやらないんだろう、と思ったら、今年の夏全国ロードショーとのことです(まあ、ユーロスペースだから、あまり上映館数はないんですが…)

ミリキタニの猫 公式サイト
東京国際映画祭のホームページ

以下、ネタバレを含みますので、「自分で見る!!」という方はご注意下さい。
(もっとも、内容知ってても十分見る価値ある、と私は思いますが。)
客観的な内容については公式サイトや他の人のブログで紹介されているので、私は率直に自分が思った事を書きたいと思います。


***

「ミリキタニ」というのは、日本人画家の名前です。ちょっとあまりない名前なので、最初は何の事かわからなかったのですが、オープニングに出て来た彼の絵で、これは日本人だ、と分かりました。
で、どんな話だろう、と余計に興味が出て来たのですが……

シーンは、冬のニューヨーク、一人の路上生活者へのインタビューで始まります。
かじかんで動かない手に、クレヨンを持って、日本人の老人が絵を描いています。
監督は、リンダ・ハッテンドーフという女性。彼女が、直接インタビューをしているのです。
名前は、と聞いた彼女に、老人は「Mirikitani」「Great Master Artist」と答えます。

正直いって、この時点で、この人はちょっとおかしいのではないのかな、と思ってしまいました(スミマセン)。
曲がった背中の下から見上げる視線は昏く、自分の事を「Great Master Artist」だと言う。
画家を目指してアメリカに渡ったが、結局ものにならず、今でもそれを諦め切れずにいる、そんな風に見えてしまったわけです。
彼の絵は、確かに独特の雰囲気がありましたが、この時点ではかなり荒れている印象を持ちました。だって、冬のニューヨークですよ! 寒さは肌を差して痛いくらいです。まともに絵がかける気候じゃないです。

しかし、そんな私の思惑をよそに、彼女は何度もミリキタニの元に足を運ぶのです。そうすると、老人はぽつぽつ語り始めます。
自分はアメリカで生まれたこと。それから日本の広島に渡り、日本で育った日本人であること。戦争で、徴兵を逃れ、再びアメリカに渡ったこと。戦争で多くの家族や友人を失ったこと。

少しずつ、見ている方は、彼の昏い視線の理由を悟り始めます。
でも、私はそれで純粋に感動出来る程素直な人間ではないので(苦笑)この時点でまだ、この人の言ってる事ホンマかいな、と疑っていたわけです。
それは、とりもなおさず、私自身が、第二次世界大戦によって日本人がアメリカでどういう苦労を強いられたのかを、あまりにも知らなかったという証明に他ならなかったわけですが……

転機は、2001年の9月11日に訪れます。同時多発テロの当日、彼は炎上するツィンタワーを描いていました。彼の描く絵には、その直前に紹介された、彼が広島の8.6を描いた絵と同じように、曲がりくねった炎の絵が描かれています。
ニューヨークは厳戒態勢に入り、街は瓦礫の砂塵で埃だらけ。監督は、街で咳き込んでいた老人を自宅に呼び、借りの住まいを提供します。

そもそも、監督は女性、一人暮らしです。そんなところに、路上生活をしている老人を連れ帰る、その事に、私は驚きました。彼女がクリスチャンかどうかは知りませんが、何か、そういうキリスト教的文化の、非常にいい面というか、凄い面を見たような気がしました。取材の対象だから、という、それだけの動機で出来ることではないな、と。その後彼等の共同生活が始まるわけですが、全ての柵を捨てて路上生活をしていた80すぎの老人と、うまくやっていくというのは並大抵のことじゃないですよ(笑)自分の本当のお爺さん、お婆さんとだって上手くやっていけなくて、問題を抱えている人が多いというのに。

東京国際映画祭のホームページでは、この日の彼等の交流が、監督のリンダ・ハッテンドーフ氏の言葉として紹介されています。彼女曰く、あの9.11がなければ、ミリキタニ氏は自分のアパートに来る事を承諾しなかっただろう、と。彼女は過去に何度か、雨の日にミリキタニ氏を家に誘った事があったが、その度に断られていたようです。彼女は、ミリキタニ氏が以前に、広島の人々が、原爆投下直後に、その空気に毒が混ざっている事を知らなかった、と口にした事を思い出し、「この雨にも毒が混ざっているかもしれない」と説得して連れて帰った、とのことです。)

監督の家で仮住まいの場所をもらった老人は、怒濤の勢いで絵を書き続けます。
このあたりから、この人、本物の絵描きかもしれない、と(素直じゃないですね(笑))
というのは、その絵に対する情熱というか、執念もさることながら、暖かい場所できちんと食事を取って、タッチが戻って来た感じがしたんですね。
基礎がかなりしっかりしている、そういう印象を持ちました。
それで、「Great Master Artist」というのはハッタリではないのかも知れない、と。

9.11以後のアメリカの動き、それを見詰める老人の視線、映画は淡々とそれらを映していきます。こういう映像は、あまりアメリカではお目にかかれません。いろいろ効果を弄って、監督の思惑に観客を誘導するケースが非常に多いのですが、このドキュメンタリーは全編を通して、過剰な演出を抑え、観客の感じるままに任せています。

その後、「ミリキタニ」という珍しい名前が幸いして、監督は彼の肉親もしくは親戚かもしれない人物への手がかりを得ます。色々と手を焼いてくれる監督に、老人は少しずつ心を開き始めます。そうして、次々に明らかになる老人の過去。戦争が、在米日本人にどんな悲劇をもたらしたのか。被爆した広島で家族を失い、アメリカでは収容所で友人を失い、市民権も奪われて、生きる権利を剥奪されてきた現実。アメリカ政府への強い不信感。彼は頑にソーシャルセキュリティナンバー(社会保障制度のための国民背番号)を担当者に教える事を拒み、アメリカのパスポートなど要らない、今は日本のパスポートで何処へでも行ける、と言い放ちます。

アメリカでソーシャルセキュリティナンバーを得るというのは、生活する権利を確保するのと同義です。前にも書きましたが、学生などで身分が保証されているならともかく、そうでなければ何一つ契約の類いができないからです。ミリキタニ氏はアメリカで働いていたのだから、当然年金を受ける権利があるのですが、それだって SSN がなければ支給してもらえないのです。それを拒むというのは、本当によほどのことです……こっちへ来て、それがよく分かりました。同時に、彼が何故路上生活を選んだのか、漸く納得がいきました。

監督と、ソーシャルセキュリティオフィスの担当者の粘り強い働きかけで、老人の怒りは少しずつ解けていきます。市民権も、実は既に回復されていた事が知らされます。「誰もそのことを貴方に教えなかったの?」 監督の言葉に、なんとも言えない複雑な表情をするミリキタニ氏。これは、ものすごく納得してしまった。アメリカって、ほんとに、一時が万事そうなんですよ!! 書類を発行したところは、それで仕事は終わり、それがちゃんと先方に伝わったかなんて気にしないし、それがちゃんと伝わるような努力も全くしない。たまたま人から聞いて自分で調べて問い合わせなきゃ、誰も教えてくれずに知らないままだった、なんてのは本当にザラなんです。

これ以上は、もう、フィルムを見てもらった方がいいと思うのですが、本当に久しぶりに、涙腺が緩んでしまった(苦笑)。それは、フィルムの構成がどうの、という問題ではなくて、一時間(本当の映画は90分のようですが)の間に、どんどんと変わって行くミリキタニ氏の表情に打たれたからです。この映画、色々と考えさせられるテーマはあるのですが、私は、この老人の表情の変化も、一つの大きなテーマなのではないかな、と思っています。

上のリンクにある、ミリキタニ氏の写真。笑って、ピースをしています。この笑顔から、昏いものを込めた冒頭の表情は想像出来ないと思います。曲がっていた背もすっかり伸び、視線は真っ直ぐ前を見ています。
一体、あの戦争で、どれだけの人が重い過去を背負わされ、今もそれに押しつぶされながら生きているのか。そこから開放された時、人の表情はどう変わるのか。それを開放するのに、どれだけの長い時間と、絶え間ない周囲の努力が必要なのか。
この映画の凄い所は、他でもない監督がその努力によって、その大変な偉業を成し遂げたというところにあるのだと思う。だから、ただのドキュメンタリーと呼べる以上の、大変な説得力と魅力を持っているのだと思います。

ひとつだけ、東京国際映画祭のホームページから言葉を引用します。

「ジミーは私たちすべてにとって、何事も遅すぎることは決してないということを示す実例なのです」とハッテンドーフは言う。「長い間求め続けてきた法的許可と敬意を、彼が実際に手に入れた姿を見るのはすばらしいことです。」


是非、機会があったら見てみてください。
(私も全編見たいです……Indepent Lenseは1時間番組だから、途中カットされていたかも知れない。。)
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by lily_lila | 2007-05-17 21:09 | 渡米生活...住
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